ネタバレ厳禁というインパクトの強い作品。
世界でいちばん透きとおった…とはどんな物語なのか。
最大のネタバレは回避して、感想を書きました。
ちょっとでも内容を知りたくないという方は、小説を読んでから、このページに戻って来ていただけると嬉しいです。
タイトル 世界でいちばん透きとおった物語
著者 杉井 光
出版社 新潮社
発売日 2023/4/26
ページ数 240
Kindle Unlimited 対象外
Audible 対象外
あらすじ
主人公の藤阪燈真(ふじさか とうま )は書店でアルバイトをしており、現在一人暮らし。
唯一の家族である母・恵美(めぐみ)は2年前、交通事故で亡くなった。
淡々と毎日を送っていたところ、大御所作家である父・宮内彰吾(みやうち しょうご)の訃報が入る。
母と父は不倫関係にあり自分を身籠った母は、子どもを産む代わりに父には一切関わらないという約束をして、女手ひとつで自分を育ててきた。
父親の死を知っても何の感情も浮かばなかった燈真の元に、宮内彰吾の息子と名乗る男から電話が入る。
「遺稿を探して欲しい」
その依頼を受けた燈真は父の人柄を知り、自分の中に浮かび始めたモヤっとした感情に気づきながら遺稿探しを始める。
感想
推理要素を楽しめる
遺稿のありかを探す上で、少しずつ父親の人柄を知り、なぜこの作品を書いたのか明かされていく様が面白いです。
また、人は死にませんが事件が起こります。
事件の真相を突き止めるのに燈真と共に推理するのが、深町霧子(ふかまち きりこ)という女性。
燈真の母は生前、校正の仕事をしており出版社で編集をしている霧子と仕事をしていました。
霧子は美人で才女。ただ大好きな小説について語り出すと、少し熱くなるところがあります。
燈真は霧子に対し密かに思いを寄せているのですが、本人は気づいているのか疑問。
仕事以外においては、鋭い勘は鈍くなるのかもしれません。
そいういった所も面白いです。
燈真と腹違いの兄との対比
燈真にとって会ったことのない父の素行は、褒められたものではありませんでした。
父には何人もの愛人がいて、自分の母を捨てていたし、人間のクズだと感じるようになっていました。
ただモヤっとしたこの感情に名前が付けられないままの燈真に対して、実子である腹違いの兄・朋晃は、父親に対して序盤から怒りを露わにしています。
燈真は父親の最後の作品を探していく中で、怒りにしろ何かはっきりとした感情を抱きたいのだろうかと感じました。
ただ淡々と同じリズムで生活をして、自身のテリトリーから出るようなことも無い。
作中では感情の起伏を感じられず、最愛の母の死においても感情的になることはありませんでした。
風が吹かず穏やかな凪の状態ではなく、そもそも風というものすら無い世界にいるような印象を受けました。
本が形になるまでの制作者側の世界が覗ける
作家や編集者の会話が面白く、興味深かったです。
単行本から文庫化までの話、ページのレイアウトについて。
本に対する愛情と、ストーリーを生み出す作家へのリスペクトが感じられました。
私は推理小説に詳しくないのですが、これを機に読んでみようかと。
実在する小説家の京極夏彦先生の執筆スタイルにも触れています。
制作側の意図と読者側の目線とを考えて作られていることを知り驚きました。
こうした裏事情を知ると、読書欲が湧きます。
うわっと仰け反るくらいの制作側の熱さを感じたい方は読んでください
初回に読んだ時は、鳥肌が立ちました。
家にいる時に読んでよかったと思えるくらい「おーおー」叫びましたから。
2回読んだのですが再読してみて感じたことは、愛と作家魂の本ではないかと。
主人公の感情の変化や、進み始めた時間に読者としてホッとしました。
どうしてもストーリー展開が気になってしまって、読みこぼしてしまう場合は、再読をオススメします。
初回に気づかなかったことが見えてきますよ。